なんか機嫌悪くねぇ?と尋ねたら、「別に」と返ってきた。——いやいや。
「怒ってんじゃん。何?」
「怒ってない」
夏休みも半ば、日差しが照り返すアスファルトにじりじりと体を焼かれながら、かげろう揺らめく街中を並んで歩いている。お届け物と買い出しを同時に頼まれて、割れ物だからバイクはNG、と言われ仕方なくの徒歩だ。文句は言わない、移動中もバイト代は発生しているのだ。お世辞にも忙しいとは言い難いあの店が、休み中も継続して二人を雇ってくれるだけで有り難い。何せ金が必要なお年頃なので。
届け物が済んで買い出しも終わって、店に戻る道中、クラスメイトでバイト仲間でスケート仲間の親友は、さっきからずっとムッツリ押し黙っている。あからさまな態度になんだよ、と溜め息が出てしまう。暑いし、荷物重いし、おまけに空気悪いし。ああ早く戻ってパークに行きたい。思いっきり滑りたい。
「……さっきの」
んん?と顔を横に向ける。半分ずっこした荷物を両手で抱えたランガが、前を向いたまま呟いた。
「アイスの」
「ああ!」
お届け先は地元ブランドアイスのフランチャイズ店だった。店長が趣味でスケートをやっていて、たまに店にも顔を出すお得意さんだ。店頭で修理と強化を頼まれたボードを届けに来たと伝えると、本人はあいにく留守で、中身の確認とサインを貰って帰ろうとしたところを奥さんに呼び止められた。
「暑かったでしょ、サービスするから食べてって」
「マジすか!?やった俺トロピカルマーブル!お前なんにする?」
「ストロベリーチーズケーキとサンフランシスコミントチョコ」
ひとつに決まってんだろ図々しいな、と呆れていると「いいよダブルで。暦くんは?」と言ってくれたので、お言葉に甘えて「じゃあパッションフルーツで!」と遠慮なく追加した。
アルバイトは同い年くらいの女の子で、まだあまりディッシャーの使い方に慣れていないようだった。
「えっと、ストロベリーチーズと、ミント……」
時間をかけて提供されたひとつめのアイスは、何とか二段になってはいたが今にも上が落っこちそうだった。尤もランガは受け取ってすぐ上をふた口で食べてしまったので、何の問題もなかったが。
「トロピカルと、……パッション」
パッションフルーツは残り少なく、なかなかすくえないようで苦労していた。カシャンカシャンと何度も失敗する音がして、なんか大変そうだな、とアイスを舐めながらランガが思った時、不意に暦が「やっぱ変更してもいい?俺ココナッツ食いたい」と言い出した。
「え?あ、はい!」
女の子はホッとして、すぐにディッシャーを移動させた。ココナッツは容器にたっぷり入っていたので、難なくすくうと「お待たせしてすみません」と暦に手渡した。
「サンキュ!」
「……ありがとう。やさしいね」
にっこり笑った彼女に、暦は「えっ何が?」と恍けつつ、ちょっと照れて赤くなりながらアイスを受け取った。
いやーやっぱどうせなら普段食わねーフレーバー試したくなってさ。ここ店長すげーイイ人っしょ。俺も何回もミスして迷惑かけて、でも怒られたことなくて。S学?頭いいんだなー!あー俺も2年!うん、スケートは趣味でやってて、バイトもこの先の……
女の子は黒髪ロングのストレートだった。わかりやすいな、とランガは冷めた目で二人を見つめていた。
「ココナッツなんか好きじゃないくせに」
途端に暦は「う、」と言葉に詰まった。
「べ、別に嫌いじゃねーし」
「かわいい子だったね」
「……フツーだろ」
「連絡先交換したの?」
「、しねーよ!馬鹿じゃねーの」
フイとそっぽを向いて、早足に歩き出した暦の後を追うように、ランガも歩く速度を早めた。別に怒ってるわけじゃない。ただ、楽しくはなかった。せっかくのアイスの味もよくわからなかった。
髪先から汗がぽたりと伝って落ちる。暑いな、と思った。早くボードに乗りたい。余計なことなんか考えず、思いっきり滑りたい。
——髪、伸ばそうかな。
店に戻ってすぐに品出しと点検作業に入り、夏休みということもあって初ボードを見に来た客が続いて(暦はそういうお客ほど丁寧に接客するので)、仕事が終わってパークに寄る頃には、夜の八時を過ぎていた。真っ暗なパーク内で目を凝らしてひとしきり滑って、基本のショービットを詰めている辺りで、噴き出す汗と空腹感に耐えられなくなってしまった。
「お腹すいた……」
汗だくになりながら、ランガはその場にしゃがみ込んだ。
「俺もう自分の匂いが限界、風呂入りたい」
顔の汗をシャツで拭いながら、暦は持参したペットボトルをひと息にあおった。
「まっず……」
ぬるくて炭酸が抜けきったコーラの残りを地面に撒いて、空のボトルを備え付けのゴミ箱に投げ入れてから、暦はパークに未練を残しつつも「帰ろうぜ」と声をかけた。
「あ―……晩メシ買って帰らなきゃ」
「え、おばさんまだ遅いの?」
「今日はホームに泊まり。明日の昼過ぎまでいない」
そこでちょっと二人の間に沈黙が出来た。ランガはこのことを暦に話すつもりだったのに、日中にあったなんやかんやで言い出せずにいたことを思い出した。暦はそんな大事なことを何で今まで黙ってたんだよ、とばかりにムムっと眉を吊り上げた。
どちらかの家が留守の時にだけ、二人で決めた約束事があるのだ。
「お前、先にエンダー行って注文しといて。持ち帰りな」
そう言うと暦はポケットから取り出したスマホを耳に当てると、すぐに繋がった相手と話し出した。
「あ、俺だけど。今日さ、ランガん家泊まるから。うん、適当に買う……いや俺の分のおかず取っといてよ。昼に帰って食うから。うん、わかってる。えっナナカ?いいよ代わんなくて、あーもうちょっと」
通話の途中で暦がこちらを見た。小さい妹を言い含めるような声を出しながら、視線はランガを向いたままで彼は言った。
「イイ子で待ってろって。……帰ったら、いっぱい遊んでやるから」
ランガはくるりと背中を向けて、ボードに足を乗せた。——公道までなら滑っても大丈夫。こんなに暗いし、人通りもないし。だから、誰かに見られることもない。耳まで赤くなった顔を。
クラスメイトでバイト仲間でスケート仲間で親友で、……それ以上だ。おれたちは。
玄関を入るや否や「暑い!」とほとんど壁を殴りつけるようにして電気を付けて、乱雑に脱いだ靴を半ば蹴り飛ばしてリビングに直行すると、勢いのままエアコンのスイッチを入れた。途端にスーッと流れてきた冷気にホッと息を吐く。狭い部屋だからすぐに涼しくなるだろう。フローリングに直に座った暦が「あ”~生き返る……」と腹の底から声を出した。
「レキ、先に風呂入る?今お湯ためてるから10分くらいで入れるよ」
「サンキュ、けど腹減ったから先にメシ食う」
「あ、おれも」
バーガーふたつにBOXセットのチキンビットをきっちり10分で平らげて、空腹が満たされた暦は満足そうに「じゃーお先!」とバスルームへ向かった。ランガはバーガー10個とお気に入りのスーパープーティン、フライボックスのLサイズを胃に詰め込みながら、どうしようかな、と考えた。まあいいか。おれの家だし。
冷水で足を流してから、熱いシャワーを頭から浴びる。汗が引いて少し冷えた体に、熱い湯は心地よかった。ランガのシャンプーを使ってわしゃわしゃ頭を洗いながら、前に風呂借りた時は間違えておばさんのを使っちゃったんだよな、と思い出した。俺の髪先からどう考えても不釣り合いなスゲーいい匂いがして、ランガが笑いながら言ったんだ、「レキ女の子みたい」って。ベッドの上で。
俺の体の下でオンナノコになったのはランガの方だった。脚をめいっぱい開いて、俺をナカに入れてくれた。ランガの中はあったかくて、狭くて、ぬるぬるに濡れてて、信じられないくらい気持ち良かった。あんまり気持ちよくて、入れただけで出してしまった時はすげえ情けなかった。不甲斐なくていたたまれなくて、ごめんって謝ったら、ランガは笑って「うれしい」って言った。レキがおれの中で気持ちよくなってくれて嬉しい、って。そん時のランガは可愛くて、キレイで、男前で、エロくて、俺は懲りずにまたナカに入らせてもらった。
覚えたてのセックスは脳みそが溶けるみたいで、俺たちは夢中になった。長いこと使われてない埃だらけの部室で、散らかった店のロッカールームで、狭いガレージで、俺の部屋で、猿みたいにヤリまくった。ランガは一度もイヤだって言わなかった。ただ、翌日ちょっとだけ辛そうだった。当たり前だ、負担が大きいのはあいつの方なんだから。それから二人で相談して、最後までするのはどちらかの家が留守の時だけにしようって決めた。当然、普段はガマンするしかないから「できる」日が待ち遠しかった。それはランガだって同じはずで、いつもならおばさんが居ないってわかった時点で俺に言ってくるはずなのに、今日は違った。あのままだったら、家に呼んでくれなかったのかもしれない。そんなのイヤだ。だって三週間ぶりなんだぜ?ランガお前、何をそんなに怒って——
カチャ、とバスルームの扉が開いた。湯船に浸かってぼんやり考えていた暦は、数秒遅れて顔を上げた。
「……え?」
真っ白い体が湯気の向こうに見えた。全体的に細いけれど、しっかり筋肉の付いたしなやかな肢体。見慣れたと言うにはまだ足りない、いつだって見惚れてしまう——裸のランガがそこに立っていた。
「、えっ何、ちょっ」
「一緒に入った方が早いと思って」
何でもないようにそう言うと、事態が掴めず焦ってわたわたしている暦を尻目に、ランガはさっさとシャワーを浴びて髪を洗い、軽くスポンジを泡立てて二の腕を擦り出した。これ見てもいいのか?いいよな男同士だし今さらだよな?と変に意識してしまった挙句チラチラ横目で盗み見ながら、コイツ見た目に反してずいぶん雑な洗い方すんな、とどこか冷静な頭で暦は思った。なんというか適当なのだ。あ、のど洗い忘れてる。ナナカも何でか首まわりだけは自分で洗わないで、いつも「のーん」とか言って顎を上げてくる。そう言ったら誰かが洗ってくれると思ってるんだろうな。いやさすがに幼児と一緒にするのはアレだけど。あっでも耳の後ろは念入りに洗うんだ偉いぞナナカ、じゃなかったランガ。
よくわからないことに感心しているうちに、ざっと泡を洗い流したランガがシャワーコックをキュッと捻って髪を掻き上げ、くるりとこちらを振り向いてバスタブに足を掛けた。
「……!」
目の前で、至近距離で、ランガの脚の間が見えた。下を向いた性器の奥の、暦を受け入れてくれるその場所、……その中まで。
うすいピンクの縁の、奥が赤く熟れているのがよく見えた。ああ、あそこに俺、いつも……
「レキ」
はっとして、凝視していた目線を上げた。対面に座ったランガが、ことりと首を傾げて笑った。
「……エッチ」
そこで理性の糸がぶっ飛んで、バスタブの中で襲い掛かった。ランガの白い体があんまり美味しそうで、夢中で首筋に齧り付いたら、噛まれるまま俺の頭を撫でながら「ここじゃのぼせるから、上がってからしよ」とランガがまた笑った。なんでそんな余裕なんだよ!すぐにランガの手を引いてバスルームを出て、脱衣所で抱き締めようとしたら今度は胸をやんわり押し返された。なんだよぉ!と焦れる気持ちを隠さないで睨み付けると、「風邪ひくから、ちゃんと体拭いて。暑かったんだから水分とって」とめちゃくちゃ冷静に諭されてしまった。俺はぜんぜん冷静じゃなくて、一刻も早くセックスがしたくて堪らなくて、ヤリたくて入れたくて必死だった。傍にあったバスタオルを掴んでランガに向かって投げ付けて、腕をぐいぐい引っ張って裸のままリビングに戻った。足の裏が濡れててフローリングに水溜りが出来たけど、そんなこと気にしてる余裕もなかった。ソファの上にバスタオルをおざなりに敷いて、その上にランガを突き飛ばすみたいにして乗っかった。
「ランガ、入れたい、入らせて、も、ガマンできねーよぉ」
無茶いうな、と自分でも思ったけどほんとに切実だった。入れたい、入れたいと何度も聞き分けの無いガキみたいなことを言いながら、バキバキでもう先走りが漏れてるちんこを無遠慮にぬるぬる穴に擦り付けると、ランガのそこはひくひくっと蠢いて、すぐに俺を歓迎するみたいに先っぽをぬるりと飲み込んだ。
「へっ、」
なんで、と言葉に出す前に、ランガが俺の背中に腕を回してきた。上から見下ろす形になったランガの顔が、ちょっと恥ずかしそうに目を逸らして呟いた。
「いいよ。……準備、できてるから」
ランガの中は最初からとろとろに溶けていた。風呂に入る前にちょっとだけ自分でした、と囁くように白状するのを聞いて、だからあんなに真っ赤になってたのか、と暦は腑に落ちると同時にたいそう興奮した。自分でって、一緒にメシ食ったばっかのリビングで?まだ汗も流さないうちに?どんな顔してお前そんな、そんなエロいことひとりで、
「あぁ、レキ、すごい……」
ソファが軋む。ぐちゃぐちゃのバスタオルが床に落ちる。もう何がどうでも良くなって、馬鹿みたいに前後に腰を振るだけの猿になった気分だった。三週間ぶりのランガの中はやっぱり最高に気持ちよくて、上がる息と、漏れる声をどうしたって抑えられない。
「、ハー……、ハァ、ハッ……」
まるきり舌を仕舞い忘れた犬みたいだ。だらしなく開いた口から舌を伝ってよだれが落ちる。頬にぽたりと落ちたその雫を、蕩けた目をしたランガが舐めて掬い取った。あ、あ、気持ちいい、奥にいつもこりこり出っ張ったとこがあって、そこを突いてやるとランガが「あっ!」って高い声を出すんだ。お前もちゃんと気持ちいいよな?触ってねぇのに勃ってるし、先っぽからだらだら零してるし、いいんだよな?あ、もうダメだ、出る、でる、いや待てダメだゴムしてな——
♪テケトッコ パカポコ ポン♪
すべてを台無しにするような、あのデフォルトの着信音が鳴り響いた。……嘘だろこのタイミングで。
「……、あ、母さんからだ」
そして信じられないことにコイツ、出やがった。嘘だろこのタイミングで?
「もしもッし、ン、大丈夫……、ンン、食べた」
(奥まで入ってるしめちゃくちゃ勃ってるしお互いもうイく寸前で、平気な顔(でもないけど)して親からの電話に出られるってお前、どういう神経してんだよ!)
「、今日、レキ、来てる。うんッ……え、あいさつ?レキに?」
無理無理無理!と暦は必死に頭を横に振った。いま声出したら確実に出る。ていうか、ちょっとでも余計な動きしたら出る。ただでさえ狭いランガの中が、絶頂の予感にきゅうきゅう締まっているのだ。ふぁ、と暦は息を漏らした。……駄目だ、限界だ。お前だって絶対もうイきそうな癖に、なんで、
「……、レキ、今、ゲームしてるから、」
びくん!とナカで性器が跳ね上がった。途端に細かい痙攣をし始めた内部の、締め付けるような動きに暦は堪らず「ぅあ!」と今度こそ声を漏らした。
「ッすごく……、盛り上がってて、今、」
——あ、駄目だ、ダメ、絡み付いてくる、ランガ、ごめん、次からはちゃんと最初っからゴム付けるから、だから今だけ、今回だけ、許して。意地悪しないで、頼むから。あっ出る、でる、——、
「——!!——!!……ぁ、……レキ……死んじゃった」
ぶは、と思わず噴き出した。
中で思いっきり射精しながら笑うと、腹筋が引き攣れるんだって、どうでもいいことを知った。ランガはいつの間にかスピーカーにしたスマホを投げ出して、声が漏れないように口を両手で押さえていた。イッた時に勢いよく飛ばした精液が、自分の顔にまでかかっている。
……めちゃくちゃ興奮してんじゃねーか、このスケベ。
ランガの中に入ったまま、暦は腕を伸ばしてスマホを拾い上げた。ナカで擦れて、ランガが「ひン、」と小さく悲鳴を上げた。スマホを耳に当てると、向こうで彼の母親が『えっ死んじゃったの?』と慌てる声が聴こえた。
「……もしもし、」
『あっ暦くん?ごめんね、ゲームの邪魔して。夜ごはん足りた?冷蔵庫に作り置きのラフテーがあるの、ランガに言い忘れてて。お腹すいたら食べてね。それと朝ごはんのお米は多めにセットしておくようにって伝えてくれる?そうそう、あの子のオムレツは一級品だから、ぜひいちど食べてやってね』
そこでこちらを見ていたランガと目が合った。——母さん、なんて……?自分の精液で白く濡れた唇がそんな呑気なことを言ってくるのが、とんでもなくエロチックで、なぜだか可笑しかった。
「はい、ありがとうございます。じゃあ遠慮なく、……いただきます」
今度はランガが噴き出す番だった。
「お前さあ、やっぱなんか怒ってたんだろ」
「……別に」
嘘吐け。暦はゆっくり腰を引いて、萎えた性器を抜き出した。ぼたた、と重たい音がして、中から大量の精液が流れ落ちてくる。くしゃくしゃになったバスタオルを拾って脚の間にあてがうと、ランガが「なんかおれ子どもみたい」と笑った。
そのまま仰向けに寝転んだ状態で両腕を広げてきたので、引き寄せられるように倒れ込むと後頭部に腕を回されてキスされた。口の中が熱くて、やたら粘っこいキスをしながら、今日そういえばまだ一回もしてなかったな、と暦は今さら気が付いた。唇が離れて、お互いの舌をとろんとした細い糸が繋ぐのを間近に見ながら、もっかい風呂入り直すか?と尋ねるとランガは素直に頷いた。ふらつく腰を抱いて支えてやると、横からきゅっと抱き着いてきた。
——なんだかんだあっても、ぜったいに嫌われてないことだけはわかるんだよな。
「……言いたいことあんならちゃんと言ってくんねーと、わかんねーよ俺」
ランガはちょっとだけ考えて、じゃあ、と口を開いた。
「レキ大好き。もっといっぱいセックスしたい。あとおれ髪は伸ばさない」
「いや最後の、何?」