クラシック
玄関の扉をこんなにも重く感じたことはなかった。息を弾ませながら框を上がって、脱ぎ散らかしたせいで三和土にでたらめに転がった靴には見向きもしないで、一目散に階段を駆け上った。台所から母親の「遙ちゃん帰ってるの?おやつあるわよ」という声が聞こえ…
凛遙
*水曜日の情事
ぴん、ぽぉん。紅茶のパックを揺らす手を止めて、ついでにコンロの火も止めた。煮出しすぎると味が渋くなってしまうのだ。美味しいアイスティーの煮出し時間、きっかり21分にはまだ少し早いが、長過ぎるよりはましだ。「はい」インターホンに応答すると「シ…
凛遙
同族嫌悪
シンデレラも白雪姫もいばら姫も、あとえっと、誰が居たっけか。まあいい、兎にも角にもだ。世界で読み継がれるハッピーエンドの常套句「2人は結ばれて、いつまでもいつまでも幸せに暮らしました」これだ。2人はいつまでも、いつまでも――いつまでもって、…
凛遙
プロポーズやり直し
「俺が明日死んだらさ」遙は今まさに湯を注ごうとしていた手をぴたりと止めた。そうでなければ沸かしたての湯が手指を直撃しているところだった。危なかった。急須を手元に下ろして、気を取り直して彼はつい今しがた、不吉きわまりない言葉を口にした男の顔を…
凛遙
*ブルースカイ・ブルー
七組の七瀬遙が人魚だというまことしやかな噂が凛の耳に入ったのは、鮫柄学園に転入していくらも経たない四月の終わりのことだった。「何組の、誰だって?」くだらねぇこと言って担いでんじゃねーぞ。凛の鋭い眼差しを軽く受け流して、クラスメイトは「だから…
凛遙
先生あのね
初めて会った日のことを覚えてるよ。「先生さよーならー」「おう、また明日な」パタパタ足音を鳴らして駆けて行く子どもたちと軽く挨拶を交わして、その後ろ姿を見送ってから、松岡は再び廊下を進み出した。前の授業で使った英語教材を資料室に運んで、職員室…
凛遙
Time goes by
「おまえ、それ、やめろよ」不機嫌そうな言葉と共にべちん!と手のひらを払われて、凛はムッと頬を膨らませた。「それってなんだよ」「そういう、ベタベタひっついてきたりとか、触ったり、とか」凛はスキンシップ過多だ。少なくとも、遙はそう思っている。転…
凛遙
遙・イン・ワンダーランド
遙が扉を開けると、そこは大広間だった。床は磨かれた大理石で、天井のシャンデリアはダイヤモンドでぎらぎら輝いている。悪趣味だな、と思いながら手をかざして目を細めてみても、四方のどこにも壁が見当たらない。それほどこの部屋は出鱈目に広いのだ。部屋…
凛遙